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柳の木の下でブランコを漕ぐ

俳優窪田正孝さんを楽しむ私の隠れ家

『東京喰種トーキョーグール』2巻を読む

 

2巻では、カネキが喫茶店「あんていく」でアルバイトを始め、喰種としての生活をスタートさせる。 ウタさんが「ぼくらが人間社会に溶け込むのなんて、言っちゃえば "終わりのない綱渡り" みたいなもんでさ……」と言うように、喰種たちがいかに苦労をしながら人間に紛れて生活しているのかを読者はカネキ目線で知ることになる。

 

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喰種=虫

喰種は、赫子(かぐね)の見た目や匂い(フェロモン?)への反応から虫の化身のような特徴を持っているが、真戸が発する喰種への言葉にも虫に関する表現が頻出する。

「飛んで火にいる何とやら……」

「羽虫が自ら蜘蛛の網に引っ掛かりおったな」

「母が子のため命を捨てる……クク……虫酸が走るよ*2

「所詮、小虫……。遠くへは行けないさ」

こうやって並べてみると、虫に対する人間の言葉はかなり辛辣だ。「虫」を使った褒め言葉が思いつかない。

 

突如発動されるカネキ=ネコ=窪田正孝という設定

「喰種=虫」の関係が現れる一方で、2巻のカネキは突然なぜか猫になる(たぶん2巻だけ?)。「猫といえば窪田正孝」なので、関連させて読まずにはいられない。

例えば、つぎの場面。カネキが淹れたカプチーノをヒデに持っていくが、デザインカプチーノにはネコの絵が。

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つぎの場面では、カネキは理不尽にもトーカに「ニャーニャーうるさい」と怒られる。

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ヒデ

この物語のなかでヒデはかなり重要な人物だ。原作の中でもまだヒデは謎に包まれているので、細かく見ておきたい。

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この場面、ヒデは明らかに何かに気づいている。カプチーノをトーカではなくカネキが淹れたこと? それとも近江という名の喰種に狙われていること?(実際この後ヒデは近江に追われるが逃げきる。) その両方かもしれない。

「ヒデは変な所で勘が鋭くて、いつも一歩先で僕を気遣ってくれる」とカネキが言うように、ヒデは作品の中でも鋭い推理を披露する。だからこそ、ヒデの表情は細かい変化を観察してみても、一体どこまで何を知っているのかがこちらには分からず、不安な気持ちにさせられる。ふとした瞬間の寂しそうなヒデの表情を見てしまうと、ヒデがつり目がちに笑ってしゃべっているときの方が嘘なのではないかという気さえしてくる。*6

 

喰種の定義

"喰種" 対策法12条1項「赫眼および赫子の発生が確認された対象者を第Ⅰ種特別警戒対象 別称 "喰種" と判別する」この定義によると、カネキは正真正銘 "喰種" ということになる。 

 

ウタさんの首の刺青

この巻でマスク職人のウタさん登場。首に彫られたラテン語の文字は、マルティアリス『エピグランマタ』のなかの一節(12.47)だそうだ。意味は「私はあなたとともに生きてはいけない、私はあなたなしでは生きていけない」(12巻ではウタ自身が刺青の文字の意味をカネキに説明する場面がある)。*7

この詩には直前にももう一文あって、全体ではこのような詩になっている。喰種と人間との関係について語っているようにも読める? 

同じ一人のお前が気難しいかと思えば容易に言うことをきき、

   愉しそうにしているかと思えば苦虫を噛みつぶしたよう。

わたしはお前といっしょにも、お前なしでも、暮らせない。*8

 

XLVII. ON A FRIEND.

You are at once morose and agreeable, pleasing and repulsive. I can neither live with you, nor without you.*9

  

胸のなかの "松明"

「君のその火は正しき世界を求める者には必ず燃え広がってゆくだろう。要は胸の内に "松明" を持っているかどうかだ。火を灯すためのね」と真戸が亜門にかける場面。

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この "松明" という表現、個人的には、コーマック・マッカーシーの小説『ザ・ロード』に登場する「火を運ぶ  "carry the fire"」という表現を想起する。

ザ・ロードは、詳細不明の災いに見舞われた世界を舞台に、父と子が南へと移動する物語だ。生き残った人間たちの多くは、生き残るために人を襲って食べている(他の動植物がいないほどに荒廃しているため)。そのような状況のなか、父と子は「自分たちは人を食べない。なぜなら火を運んでいるから」と次のように語り合う。

パパの顔を見るんだ。

少年は彼に顔を向けた。今まで泣いていたように見えた。

話してごらん。

ぼくたちは誰も食べないよね?

ああ。もちろんだ。

飢えてもだよね?

もう飢えてるじゃないか。

さっきは違うことをいったよ。

さっきは死なないっていったんだ。飢えてないとはいってない。

それでもやらないんだね?

ああ。やらない。

どんなことがあっても。

そう。どんなことがあっても。

ぼくらは善い者だから。

そう。

火を運んでるから。

火を運んでるから。そうだ。

わかった。*11

 

また別の場面では、死を目前にした父親がつぎのように息子に語りかける。

パパと一緒にいたいよ。

それは無理だ。

お願いだから。

駄目だ。お前は火を運ばなきゃいけない。

どうやったらいいかわからないよ。

いやわかるはずだ。

ほんとにあるの? その火って?

あるんだ。

どこにあるの? どこにあるのかぼくは知らないよ。

いや知ってる。それはお前の中にある。前からずっとあった。パパには見える。*12

 

「人を喰う」という設定が重なっているだけではなく、「火」がいずれの作品でも「人間らしさや人間としての正しいあり方(具体的には「人を喰う者がいてはならない」と思う気持ち)」の象徴として使われている点も共通している。真戸と亜門の関係は父と子のような関係にも見えるし、最後に父親が死ぬという点も共通していて、この小説が関係しているように思えてならない。

 

「だから僕はちゃんと自分の目で見てからどうするか決めます!」

「人が死ぬのも"喰種"が死ぬのも それが僕の知っている人だったら耐えられない」

「それが僕の知っている人だったら」というのがポイントだなと思う。この作品でくり返されるメッセージだけど、世の中の問題はたいてい「相手を知らない」ことで生じるし、「相手を知らない」からこそ問題が悪化する。"喰種" も "人間" も相手を知らないからこそ簡単にお互いを殺すことができる。

反対に、食料として生き物を摂取するときには「相手を知らない」ことがむしろ重要になる。角砂糖型の人肉というのはまさに知らないままでいるためには有効な方法だ。私だって個々の牛や豚、魚について深く知ったなら、食べることはできなくなるかもしれない。この点 "喰種" の立場は辛いだろうな。普段共に生活し、意思疎通が図れる "人間" の命を奪わなければいけないのだから。

 

『東京喰種トーキョーグール』3巻を読むにつづく

*1:Photo By wildfires

*2:「虫酸」自体は胃内の酸敗液を指すが、表現の成り立ちには虫が関係しているようだ。「昔は人間の体の中に実体の無い虫が存在して、この虫が悪さをして人間の不快感等を引き起こしていると考えられていたようです。『腹の虫』『虫の知らせ』『虫がおさまらない』などの言葉もここから来ています。」引用元:虫酸が走るの虫酸ってどう言う語源なのでしょうか? - 虫酸が走るの「虫酸... - Yahoo!知恵袋(2016年9月4日アクセス)

*3:石田スイ『東京喰種トーキョーグール』2巻(デジタル版, 位置No. 16/208)東京:集英社より引用

*4:石田スイ『東京喰種トーキョーグール』2巻(デジタル版, 位置No. 30/208)東京:集英社より引用

*5:石田スイ『東京喰種トーキョーグール』2巻(デジタル版, 位置No. 18/208)東京:集英社より引用

*6:おそらくこんな風に考えてしまうのは、ヒデに関するいろいろな説を知ってしまったからと、カネキが嘘をつくときの癖をヒデが知ってることに原因があるように思う。何度も読んでいると、反対にヒデが嘘をついているときの仕草や表情が作中に既に登場しているのではないかという気がしてしまう。嘘なんかついていないのが一番だけど。

*7:このサイトでもウタさんの刺青について質問をしている方がいる。皆気になっているんだな。Nec tecum possum vivere, nec sine te. | 山下太郎のラテン語入門

*8:藤井昇訳『マールティアーリスのエピグランマタ(下)』(p. 253)東京:慶應義塾大学言語文化研究所 より引用

*9:Martial, Epigrams. Book 12. Mainly from Bohn's Classical Library (1897) より引用(2016年9月4日アクセス)

*10:石田スイ『東京喰種トーキョーグール』2巻(デジタル版, 位置No. 88/208)東京:集英社より引用)

*11:コーマック・マッカーシー(黒原敏行訳)『ザ・ロード』(pp. 114-115)東京:早川書房 より引用

*12:コーマック・マッカーシー(黒原敏行訳)『ザ・ロード』(pp. 252-253)東京:早川書房 より引用